阪神大震災をはじめ、古くは関東大震災など、一瞬にしてすべてを無に帰してしまうような大災害は、過去の歴史にいくつもある。
古代ローマ帝国の衛星都市ポンペイは、その痕跡をとどめていることで有名になった町の一つだ。
ポンペイは、イタリアのナポリ郊外の一地方都市だった。当時の人口は約2万人。気候は温暖で、ローマ帝国の皇帝や重鎮らが避寒のために訪れ、町はいつもにぎわっていた。城壁で囲まれた市内には、宮殿や円形劇場、曲芸場、そして大衆浴場など、人々の憩いと娯楽のための施設がすべて整っていた。
だが、繁栄の極みにあったこの町に、突如として不幸は起きた。
西暦79年8月24日午後1時、突然ものすごいドーッという地響きがしたかと思うと、巨大な爆発音がとどろいた。市の郊外にあったベスビオス火山が爆発したのだ。
空は真っ赤に焼け、山の項上から巨大な岩石の固まりや、熱く溶けた溶岩が噴き上げられ、地上に降りそそいだ。そして、灼熟のマグマが山肌を滑り落ち、人家をあっという間に呑みこんでいった。
だが、ほんとうの悲劇はそれからだった。その夜、細かな粉のような火山灰がひっきりなしに降りそそぎ、翌朝、ポンペイの町は、一面の白い灰にすっぽり覆われ、すべての命がその灰のなかに埋もれてしまったのだ。
熱流に焼かれて死んだ者、寝ている間に厚い灰に埋もれ、呼吸を奪われて死んだ者、火山熱で一瞬のうちに体内の水分を奪われ、脱水症状の状態で死んだ者……。たった一晩で、町の人口の9割の人たちが死に絶えたのである。
まさにたった一日間の出来事だった。
先の阪神大震災にしても、激震はわずか20秒ほど。その短い揺れで、5千人もの人命が失われる大惨事になったのである。
私たちがそれに学ぶことはいくつもあるはずだ。
少なくとも、大自然の猛威の前には、人間の文明などまったく無力であることは、まぎれもない事実なのである。